芸術学科に興味を持っていただき、まことにありがとうございます。絵画や彫刻などのファインアートとデザインの分野で制作の実技を学ぶことを主眼とした多摩美術大学の中で、美術史、デザイン史や批評などを授業の中心に据えた本学科はやや特殊な立ち位置にあります。 思えば、人類は洞窟に住んでいた時代から、壁画や装身具などの工芸品とともに生活していました。芸術は生活に密着した存在だったともいえましょう。一方、どんな分野にも能力の傑出した人々がいるものです。芸術の分野では常人にはない発想で余人の追随を許さない独創的な表現をする才人たMessageちが現れました。その表現や作品の素晴らしさについては、あえてここで言う必要もないでしょう。ただしその代償としてあまりに非実用的なものを作ったり、積極的に解説を聞かないと楽しむのが難しかったりという事例が出てくるようにもなりました。特に現代はその傾向が加速しています。 ここで、「ことば」の出番が登場します。アートやデザインは五感に訴えかける表現で成り立っていますが、人間はただ目や耳でそれらを捉えるだけではなく、脳を存分に稼働させて考えながら受け止めます。そこにことばが大きく関わってくるのです。ことばは思考の礎です。そして、感じたことをことばで捉え直すからこそ、芸術のより深い次元での享受が可能になるのです。さらにことばは、享受した喜びを人に伝える力を持っています。ここに、本学科が考える「芸術学」の意義があります。 本学科はことばによってアートやデザインをより深く捉え、さらには多くの人々に伝えることで、社会と喜びを共有することを目指しています。本学科からはこれまでに多くのキュレーター、批評家、編集者、装幀家が巣立ち、一人一人の力はささやかながらも、芸術を社会の中に送り出す役割を累々と積み重ねてきました。こうしたことに興味を持った皆さんは、ぜひ本学科の門戸を叩いてみてください。「芸術学」へのいざない
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