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グラフィックデザイン学科が社会問題をテーマに、東京‐ウィーン‐杭州で学生交流ポスター展を同時開催

2019年12月3日~21日、八王子キャンパスのアートテーク1階ギャラリーで、学生交流ポスター展「ASIA+EUROPA student exchange exhibition」が行われました。この取り組みはグラフィックデザイン学科とオーストリアのウィーン応用美術大学との学学連携で、2015年から隔年で実施しているものです。3回目の開催となった今回は中国・杭州の中国美術学院が新たに加わり、各校の学生計101名がSDGsでも注目されている「gender equality(対等なジェンダー)」をテーマにポスターを制作。作品データを共有してそれぞれ現地で出力し、3ヵ国でほぼ同時に展覧会を開催しました。



海外の大学との交流を通じて、
グラフィックデザインにおける文化的差異を見出す

学生ポスター交流展は、学生の視野拡大と発想力の強化を図り、国際的に活躍するデザイナーを育成することを目的とする取り組みです。日本文化に高い関心をもつウィーン応用美術大学のスヴェン・イングマー・ティース先生からの呼びかけに、企業デザイナーとして国内外のアートディレクションを数多く担当し、海外駐在の経験もある山形季央教授が呼応。2019年度からは中国美術学院の学生も加わりました。

「文化の差異によるグラフィックデザインへの影響を、人や地域と触れ合うフィールドワークから読み取り、これからのデザインのあるべき姿を顕在化させたいという思いがありました。同じテーマ、同じメディア、同じ作品サイズで統一して制作した方が、より顕著に差異を見出せます。展覧会の行いやすさ、学生の取り組みやすさなども考えてポスター制作としました」(山形教授)


2019年度のテーマは「gender equality(対等なジェンダー)」
SDGsにも採択された国際社会共通の問題を考える

学生交流ポスター展のテーマは教員間で協議し、各国に共通する社会問題を取り上げています。今回のテーマは「gender equality(対等なジェンダー)」。国連が2015年に採択したSDGs(持続可能な開発目標)でも「ジェンダー平等の実現」は達成すべき目標のひとつに掲げられており、国際社会共通の重要な問題です。

「社会には常にさまざまな問題が横たわっていますが、デザインはそれを解決する一翼を担うべきだと考えています。テーマ決定後は各校それぞれで制作指導が行われますが、私の授業では、まずはどんな問題があるのかを知り、学生一人ひとりが自分なりのアプローチで理解を深め、自分自身の意見を構築するところからはじめました」(山形教授)

制作過程では各国間の学生同士で利用可能なSNSが設けられ、学生たちは英語で自由な意見交換を行いながらポスター制作を進めました。また、中国から成朝暉教授と学生たちが、ウィーンからティース先生が来日し、ワークショップやシンポジウムが行われるなど直接交流をする機会もありました。


デジタル技術の発達で、展覧会の3ヵ国同時開催が可能に

ポスターは200年以上の歴史がある古いメディアですが、近年のデジタル技術の発達により作品データをWeb上で共有できるようになりました。各校がそのデータを現地でそれぞれ出力し、今回、この学生交流ポスター展の取り組みでは初めてとなる3ヵ国同時開催を実現しました。

「観客に『gender equality(対等なジェンダー)』という社会問題について考えてもらう機会を、東京とウィーン、杭州で、同時に、同じ展示設計で提供する。この展覧会自体がインスタレーション(※)であるといえます」(山形教授)
※インスタレーション・・・展示空間を含めた全体を「作品」として観客に提示する手法。


学生たちの作品を一堂に集めることで見えたもの

展示スペースは各校ごとに分かれており、順を追って鑑賞していくと、その表現の差異が顕著に感じられます。

「一概には言えませんが、論理的アプローチをする人が多いのがヨーロッパ、感覚的アプローチをする人が多いのが日本。表現も、文字を主体にしたモダンデザインが多いのがヨーロッパ、絵を主体にしたデザインが多いのが日本という傾向があります」(山形教授)

左)ウィーン応用美術大学 Franz-Mühringerさんの作品。「!」と「n」が融合したビジュアルが目をひく。「違いに心を配る」というキャッチコピーで、男女の身体の違いや文字の書体の違いについて訴える。コンセプトそのものを伝えるために画面から色を排した、論理性に優れたデザイン。

右)多摩美術大学 東優子さんの作品。自分以外の人によって決められたジェンダーの価値観で日々を過ごす窮屈さを、がんじがらめになった人の形で表している。言葉よりも絵を強調したビジュアル・アプローチ。

同じアジアでも中国の学生は「書道」を取り入れたデザインが多く、日本に比べるとロジカルで、アメリカのデザインに近い傾向であるとのこと。

「グラフィックデザインはコミュニケーションを目的としたアートです。育った国や地域の文化、環境などが異なれば、当然、伝えたいことも伝え方も異なります。多文化交流から生まれる共感と違和感は、互いにとって良い刺激となったはず。互いの考え方や心の在りようを知り、理解を深め合うことで、デザインの幅はさらに広がります。世界を知ることの利点はまさにこの点にある」(山形教授)

また、この取り組みを長く続けていけば、時系列の違いからも世界の変化を互いに感じることができるようになります。作品やシンポジウム、ワークショップ、展覧会の記録をすべてアーカイブしておくことで、それ自体が時代の証言にもなるという考えから、本展覧会の成果として各大学がまとめた3言語からなる図録も制作されました。表紙のデザインはウィーン応用美術大学の学生によるものです。ビジュアルを統一することで本展覧会が3校による共創であることを表現しています。中のページは3校それぞれの学生がデザインしました。

「ASIA+EUROPA student exchange exhibition」図録。
左から日本語版(多摩美術大学制作)、英語版(ウィーン応用美術大学制作)、中国語版(中国美術学院制作)

今後の展開についてはすでにウィーン応用美術大学、中国美術学院の双方から継続を希望する声があがっており、2021年の開催が予定されているとのことです。


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