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芸術表現としての「ゲーム」を追究するメディア・アーティスト

谷口 暁彦(08年大学院デザイン修了、メディア芸術コース講師)


『やわらかなあそび』(2019)
舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー19」で上演した、 初の劇場作品。
クッション素材で作られた子供のための遊び場とバーチャル空間とを重ね合わせ、その中で自身のアバターがパフォーマンスを披露した。

※本記事は2019年12月24日発行「TAMABI NEWS 84号」に掲載した内容を再編集したものです。

「ゲーム」を批評的に、あるいは 表現の媒体として捉える領域に挑む

多摩美の情報デザイン学科の専任講師として学生を指導する一方、メディア・アーティストとしての活動も行っている谷口さん。その作品は、まだ日本ではあまり知られていないゲーム・アートやネット・アートという領域のものだ。

「海外では2000年代の半ば頃に"ゲーム・アート"というジャンルが成立し始めたのですが、一方で、ゲーム・アートという言葉はゲーム制作会社のデザイナーが手掛ける、キャラクターやアイテム、風景などのデザイン要素を指す言葉でもあり、誤解の多い名称なんです。そうではなく、芸術表現としての"ゲーム・アート"があって、そこに僕は注目しています。アーティスト自身が批評的な意味を込めてオリジナルのゲームを作ることもあれば、既存のゲームを改造したり、ゲームの映像を使って別の物語を持つ映像作品を制作したりしています。ゲーム自体やゲームをプレイすることを批評的に捉え、表現の媒体として使っていく姿勢がゲーム・アートの一つの在り方だと思います」

作品のためのデバイスやソフトウェアのプログラミングなども自身で手掛けている谷口さん。しかし、本格的にコンピュータを扱えるようになったのは大学入学後なのだとか。

「その当時は、パソコンは大学に入ってから買うものだと思っていたので(笑)。3年次から転学科して、情報デザイン学科に所属しました。プログラミングを扱う授業があったり、同級生もプログラムを書いて作品を作っていたので、ノウハウを共有しつつ、切磋琢磨して学んでいました。また、インターネットの存在は大きかったですね。分からないことはすぐにネットで調べていました。そんなことをしているうちに海外のメディア・アートやネットアートの作品に触れることも多かったのだと思います。最近僕が注目しているネット・アートやゲーム・アートといったジャンルの作品は、日本ではあまり知られていないし、それに取り組んでいる作家も少ないので、必然的に海外の作家や作品に目が向いた部分はありました」

▲『やわらかなあそび』(2019)

自分のためだけのソフトウェアを作ることが、オリジナリティのある作品を生む

谷口さんは講師としてどのような授業を行い、学生たちに何を伝えているのだろうか。

「ゲーム・アートの授業では、個人でゲームを制作できるUnityというゲームエンジンを使っています。これは実際のゲーム制作の現場でも使用されている環境ですが、ゲームを作るためではなく、独自な視点をもつ表現や、より個人的な表現のために用いるということを目指して使用しています。Unityではあまりプログラミングをしなくてもある程度のことは出来るんですが、それでも作品として制作するにはプログラムを書くことが必要で、そこで多くの学生は苦労するようです。コードを書くことは、絵の具や粘土のように直接手で触れられる素材ではないので、目に見えにくい、直感的で無い部分でいろいろなトラブルが起きます。でもそれを乗り越えると、今までにないものを作れる素材でもあります。情報デザイン学科は、多様な作品の在り方が許容される場所です。そこがすごく重要な特徴だと思っています。その中で、自分だけのオリジナルな作品を作ろうとする時に、その作り方自体や、ツールの部分から作るという指向性から、コードを書いてソフトウェアを自分で作るという作業が自然と行われるのだと思います。そうすることで既存のソフトウェアには無い表現を生み出せる。そこがゲーム・アートや、それを含むメディア・アートの魅力の一つなのではないかと思います」


谷口 暁彦
谷口 暁彦

08年大学院デザイン修了

メディア・アーティスト。08年大学院デザイン修了。メディア・アート、ネット・アート、映像、 彫刻など、さまざまな形態で作品を発表。15年より情報デザイン学科メディア芸術コースの専任講師を務める。


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