【荒木知佳】
初主演映画がフランスの映画祭で3冠受賞の快挙
「つながり」を大切にする気持ちが、俳優としての人生を切り拓いた

18年演劇舞踊コース卒業の荒木知佳さんが主演を務めた映画『春原さんのうた』(杉田協士監督)が、フランスで行われた第32回マルセイユ国際映画祭インターナショナルコンペティション部門でグランプリおよび観客賞を受賞しました。世界35カ国以上から130本が上映された同映画祭で、日本映画のグランプリ受賞は史上初の快挙。荒木さんは俳優賞も獲得しており、本作は3冠に輝きました。「作品づくりと素敵な出会いは深く関係していると思います」と話す荒木さんに、今回の受賞や学生時代のエピソード、俳優という仕事についてうかがいました。 

TAMABI e-MAGAZINE 2021.10.25

第32回マルセイユ国際映画祭 授賞式の様子(写真前列右から2番目が荒木さん、続いて杉田協士監督)

勇気を出した行動で
映画初主演のチャンスをつかむ


―― 3冠獲得おめでとうございます。まずは今回の受賞の感想からお聞かせください。

映画への出演自体が初めてで、海外の映画祭に参加するのも、もちろん初めてのことでした。受賞式で突然名前が呼ばれた時は本当にびっくりして、しばらく何が起こっているのかわからない状態でした。マルセイユは街全体がお祭りムードで盛り上がっていて、夜にはダンスパーティーが開かれるなど、会場ではリラックスして、楽しく過ごすことができました。

―― 映画初出演で初主演だったのですね! どのようなきっかけで役をつかまれたのでしょうか?

杉田監督は私が大学4年の時に出演した舞台の記録映像を担当されていた方で、以来、SNSなどでの交流が続いていました。その後、監督の『ひかりの歌』(2017年公開)という作品を観に行った際にご挨拶に伺ったのですが、当時、私は顎の噛み合わせの手術をした直後で、杉田監督からも「どなたですか?」と言われるほど顔が腫れていました。そんな私に「顎が完治したら、記念に荒木さんで一本撮ります」と言ってくださいました。その後ご連絡をいただき、初の映画出演が実現しました。あの日、勇気を出してご挨拶に伺って本当に良かったと思っています。

ただ、最初の出会いは実はもっと早くて。大学1年の時に演技の授業のゲスト講師で1日だけ杉田監督が来てくれたことがあったんです。グループに分かれてスマホで映像作品をつくるという内容でした。杉田監督がその頃はメガネをかけてなかったこともあって、私はその先生と杉田監督が同一人物だとしばらく気づいてなかったんです。『春原さんのうた』の撮影中にそれがつながって伝えたら、杉田監督もその授業のことはよく覚えていて、二人で笑い合ったのを覚えています。

tamabi_emag_0930_003.png
映画『春原さんのうた』 メインビジュアル

―― 受賞作となった映画『春原さんのうた』は、どのような作品なのでしょうか?

この作品は、東直子さんによる歌集『春原さんのリコーダー』に収められた「転居先不明の判を見つめつつ春原さんの吹くリコーダー」という表題歌を映画化したものです。私が演じた主人公の女性・沙知が、もう会うことも叶わないパートナーの面影を胸に秘めたまま、自分を取り戻すために引っ越しをするところからストーリーが始まります。セリフによって物語が進んでいくというよりも日常に流れる静かな時間を映像にしたような映画で、目に見えない感情的なものが全編にわたって表現されています。

現場の雰囲気も今まで経験していた舞台などとはまったく違った感覚でした。まず脚本を作る段階で、杉田監督から「荒木さんの特技や好きなことは何ですか?」と聞かれ、事前にいろいろなお話をさせていただきました。北海道出身であることやバスケットボールをやっていたことなどが、そのまま主人公の生い立ちとして設定されたのです。実際の撮影でも「いつもの荒木さんでいてください」と言われ、普段のまま自然に演じるように心がけました。

tamabi_emag_0930_004.png
映画『春原さんのうた』 場面スチール

俳優を志したきっかけは、
演劇好きの母の影響


―― 俳優を志したきっかけや多摩美の演劇舞踊コースに進学を決めた理由について教えてください。

もともと私の母が演劇好きで、子どもの頃から劇団四季などの公演を一緒に観に行っていました。北海道での高校時代、同級生に美大志望の友達がいて、彼女から多摩美に演劇舞踊デザイン学科ができることを教えてもらったのがきっかけです。「北海道を飛び出して、東京で新たな道に進むのもありかも」という気持ちで演劇舞踊デザイン学科演劇舞踊コースを受験し、第1期生として入学することができました。

入試では試験官に野田秀樹先生(NODA・MAP主宰、本学教授)がいらっしゃいました。野田先生の「ラララ」というかけ声に合わせて思いつくまま体で立体オブジェを表現したり、走って止まってアドリブでセリフを言ったり......。私は小さな頃から人前でみんなを笑わせるのが好きだったので、緊張することなく、試験に臨むことができました。創造力が試されるような試験だったことを覚えています。

―― 在学中はどのように演劇を学ばれたのですか?

1期生ということもあり、入学早々いろいろなことにチャレンジさせていただきました。それまで描いたこともなかったデッサンについて学んだり、授業の一環として美術の展覧会などへも出かけたりして、芸術にはこんなに豊かな表現があるんだということを教えてもらい、視野が広がりました。

専門科目では、まず1、2年生で演劇や舞踊に関わる基礎的なスキルを学習しました。たとえば、身体表現のカリキュラムの中にボイストレーニングの時間があり、呼吸や声の出し方を練習しました。そこで習得した発声方法は今でも本番の前に必ず実践しています。椅子を使って空間を把握したり、グループになってボールを投げ合ったりしながら、コミュニケーション力を養う授業があり、現場ですぐに役に立つ演習がたくさんありました。舞台という空間の中で、演者としての自分がどこにいるべきなのか、冷静に判断することができるようになったのも、こういった実践的な授業のおかげです。

作品発表のための小道具をみんなで作るという実習もありました。私は子どもの頃から書道を習っていたので、布に墨で文字を書いた衣裳を制作してパフォーマンスしました。多摩美では、衣裳や小道具といった演劇の現場で不可欠な知識を総合的に学ぶことができました。

tamabi_emag_0930_005.png
インタビューに応える荒木さん(9月12日、上野毛キャンパス 演劇舞踊スタジオAで撮影)

作品づくりと素敵な出会いは
深く関係する


―― 4年間の学びで荒木さんが得たものは何でしょうか?

実際に作品を制作する実習授業のなかで、多摩美の講師でもある糸井幸之介先生、深井順子先生の劇団「FUKAIPRODUCE羽衣(フカイプロデュースハゴロモ)」が実際に舞台で使用した台本による演劇発表がありました。授業の中で劇団のメンバーの方々が、私たち学生と一緒に全力で演じる姿を目の当たりにした時は本当に感動しました。また、舞踊のクラスではプロのダンサー・振付家として活躍されている勅使川原三郎先生(現在は本学客員教授)の指導もあり、表現の世界の第一線で活躍されている教授・講師の方々による授業によって、将来につながる技術を身に付けることができたと思います。多摩美の先生方との貴重な出会いが、今も私の大切な財産です。

―― 多摩美での学生時代は、荒木さんにとってどのような時間でしたか?

東京での大学生活はとても刺激的でした。多摩美の授業はすべてが楽しく、常に誰かと一緒に過ごしていました。同期は個性豊かで私にはないものを持っている人達ばかりで、そんな仲間に刺激をたくさんもらいました。

作品づくりと素敵な出会いは深く関係していると思います。「素敵な人だな」とか、「この人と話してみたい!」と思ったら、迷わず自分から声をかけるようにしたこともあり、多摩美ではたくさんの良い人間関係に恵まれました。一つ一つの出会いを大切に、どんどん次につなげていこうという思いで過ごした4年間でした。

俳優は「幸せな仕事」
未知のジャンルにチャレンジしたい


―― 荒木さんにとって「演じる」とは、どういうことなのでしょうか?

どの作品に参加しても「演じよう!」という気持ちになったことはなくて、「演じる」という言葉自体にも少し違和感があります。「演じる」ということはどういうことなのか、今でも考え続けています。 現場では何も考えなくても自然とセリフが出てくるのが理想です。そのために、その世界を理解できるまでひたすら台本を読み、セリフを自分の言葉になるまで、繰り返します。今回の映画も、相手と目を合わせて「今だ」と感じた瞬間に自分の言葉を口にするという感じで、その場その場で自分自身が出てくるような感覚を覚えました。自分がいたいようにそこにいる、そういうのが好きです。

―― 俳優という仕事のやりがいや今後の目標についてお聞かせください。

いろんな人に会えて、知らない場所へ行くことができる「幸せな仕事」だと思っています。また、さまざまな役柄に挑戦できるのも魅力ですね。「この役を演じたら、自分はどうなるんだろう」と考えるとワクワクします。憧れの女優は安藤サクラさん。『百円の恋』(2014年公開)という映画が印象的でした。私も自然体のまま幅の広い表現ができる俳優になりたいと思っています。

2022年1月には、今回の受賞映画『春原さんのうた』が公開となるほか、他の海外の映画祭にも招待されています。また、東京で上演される舞台にも出演する予定があります。今後は、オペラやミュージカルなど、今までやったことのないジャンルにも挑戦してみたいです。

tamabi_emag_0930_006.png

やりたいことをやりきったら、
それが個性になる


―― 最後に、これから演劇を学ぼうとする人や多摩美の後輩たちへメッセージをお願いします。

学生時代は何事も思いきり楽しむのが一番だと思います。表現することに関してあれこれ悩んだり考えたりすることもありますが、最終的にはその場その場でどれだけ自分らしく、力を出し切れるかが大切です。うまくやろうとか、失敗しないようにしようとかではなく、やりたいことをそのままやりきれば、それが個性となって、きっと楽しいのではないかと思います。

多摩美は学生たちのチャレンジを応援する環境が整っていますし、演劇舞踊デザイン学科は同じような志を持つ仲間がたくさん集まっているので、やりたいことを形にできる場所です。学内には素晴らしいスタジオもありますし、外には広々とした中庭があって野外で作品を発表することもできます。「これをやりたい!」と学生が言った時には、先生方は「いいよ、やってみよう」と背中を押してくれるはずです。これから多摩美で演劇を学ばれる皆さんも、多摩美という自由で刺激に満ちたキャンパスの中で自分なりの夢と目標を見つけ、充実した大学生活を送ってほしいと思います。

インタビューの最新記事

TAMABI SNS