サンエックスの大人気キャラクター『すみっコぐらし』
生みの親はグラフィック卒業生
多摩美はものづくりの原点、今につながる技術を授けてくれた場所

寒がりで人見知りの『しろくま』、自分がぺんぎんか自信の持てない『ぺんぎん?』、食べ残されがちなとんかつのはじっこ『とんかつ』、恥ずかしがりやで気が弱い『ねこ』、本当は恐竜の子どもだけどとかげのふりをしている『とかげ』――個性的でちょっぴりネガティブながら、その愛くるしさで子どもから大人まで大人気のキャラクター『すみっコぐらし』。『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』公開を記念して、元サンエックス社員で現在はフリーで活躍されているイラストレーターのよこみぞゆりさんに、『すみっコ』誕生秘話や学生時代のエピソードについてお話をうかがいました。

TAMABI e-MAGAZINE 2021.11.25

©2021 日本すみっコぐらし協会映画部

大人も子どもも楽しめる
すみっコたちの世界


―― 『映画 すみっコぐらし』第2弾となる『映画 すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ』が公開されましたが、見どころを教えてください。

前作同様、『すみっコぐらし』のことを何も知らない方でも『すみっコ』の世界がわかるように、冒頭にキャラクター紹介を入れるようにしたり、子どもだけでなく大人のファンも多いので、大人の方にも楽しんでいただけるように、かと言って子どもも置いてけぼりにしないようにということを心がけました。今作のテーマは「夢」なのですが、夢がある方にもそうでない方にも、観終わったあと何かしら心に残るものがあると思いますので、ぜひご覧いただきたいです。

―― 前作の『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』は、SNSでも「大人も泣ける」と話題になりました。反響をどのように受け止められていましたか?

それをきっかけに足を運んでくださった大人の方が多かったと思うので、どんな形であれ観ていただくことにつながったというのが、何よりありがたいなという気持ちでした。ただ、一番はすみっコたちの可愛さを楽しんでもらいたいですし、それは前作も今作も変わらないので、「泣ける」というのはあまり考えずに観ていただければと思います。

―― 『すみっコぐらし』は、どういったいきさつで誕生したキャラクターなんでしょう。

サンエックスに入社した1年目の秋に、社内の新キャラクターコンペに『すみっコぐらし』の原案を提出したことが始まりです。コンペの前夜に何もアイデアが浮かばず苦しんでいたときに、過去の落書き帳に何かヒントがないか探したところ、丸いキャラが体育座りして「すみっこ」と書いてある落書きをノートの片隅に見つけたんです。今『すみっコ』にいる中では、『たぴおか』というキャラクターに似ていますね。それぐらいシンプルで素朴なデザインだったのですが、その落書きを元にアイデアを膨らませてコンペに提出したところ、社内での評価がよく、翌年にデビューしました。

―― 入社翌年にデビューとはすごいですね! 人気の秘訣はどんなところにあるとお考えですか?

ちょっぴりネガティブなところに、老若男女問わず多くの人に共感していただけたからかもしれません。キャラクターもたくさんいるので「このコ、自分と似てるかも」と思えるコを見つけてもらえるのではないかと思います。また、2022年に10周年を迎えますが、これまで本当にたくさんの方が『すみっコ』に愛を持って携わってくださったことがなにより大きいです。サンエックスの先輩後輩はもちろん、協力会社の方々もいつも愛情深く取り組んでくださいますし、子どもから大人までたくさんのファンの方々の熱い応援もあって、ここまで来ることができました。ひとりの力だけでできることは少ないです。たくさんの人の力が集まると、ミラクルが起こると思っています。

多摩美で学んだ技術や得た経験は
すべて今につながっている


―― サンエックスを目指されたのは、やはり小さな頃から可愛いキャラクターがお好きだったからでしょうか。

小学生の時に『たれぱんだ』を好きになったことをきっかけに、サンエックスに入ってオリジナルのキャラクターを生み出すことが夢になりました。そして『たれぱんだ』の生みの親である末政ひかる先生が多摩美で教鞭を執られていること(当時)を知り、先生の授業が受けられる多摩美のグラフィックデザイン学科が第一志望になったんです。サンエックスのデザイナー職を受けるためにも美大に入る必要があったので、進路に迷いはありませんでした。

―― 大好きなキャラクターの生みの親である末政先生からはどんなことを学ばれましたか?

例えば「自分のキャラクターで手帳を作ってみたらどうか」とご指導いただいたのですが、手帳となると12ヶ月分のキャラクターのイラストが必要なので、「この季節にこのキャラはどんなことをするだろう?」「ページをめくるごとに楽しませるためには、色味やレイアウトのバリエーションを出さなくては」などと、深堀りして考えるようになりました。手帳が完成したときには世界観がしっかりと出来上がっていて、初めて愛着と自信を持てる自分のキャラクターを生み出すことができたんです。作業の大変さ以外にも、キャラクターの世界観を作っていくにはどう考えたらいいかということが学べたのは、入社してからもとても役立ちました。

―― 非常に実践的なご指導を受けられたのですね。

はい。今につながっていると言えば、アニメーションの授業で1分ぐらいのアニメを作ったのですが、全部手描きだったので本当に大変なんだということを学んだんです。そのときに片山雅博先生(当時)が「アニメの道に進む人は実際にはそんなにいないだろうけれど、アニメに関わる仕事をすることは結構あると思う。そのときにこの経験が生きてくる」とおっしゃっていたんですよね。実際『すみっコぐらし』が映画になってアニメに関わることになったので、あのときの言葉は本当だったんだなあと。こういう仕組みで動かすんだという知識が少しあるだけでも、アニメの方とお仕事するときに全然違うと思うんですね。3Dの授業も受けていたのですが、『すみっコ』の映画も3Dで動かしていただいているので理解できることも多く、多摩美でいろんな経験をしておいてよかったなと思っています。

作品を買ってもらえた喜びが
ものづくりの原点


―― 多摩美で学ばれた経験すべてが今の糧になっていますね。サークル活動はされていましたか?

絵本創作研究会に所属していたのですが、可愛いもの好きな人が集まっていたので、仲間内で作品を見せ合ったりしてすごく刺激を受けました。芸術祭で賞をいただいて、横浜赤レンガ倉庫で開催された『THE SIX』展(※)で作品を展示したこともあります。他にもサークルでデザインフェスタに出店して、手作りのぬいぐるみやポストカードを販売したのですが、買ってもらえたことが本当に嬉しくて、それがものづくりの喜びの原点になっていますね。その気持ちは未だに強く残っていて、いつか好きなようにものづくりをして販売するお店を開けたらいいなと思っています。

※『THE SIX』展......東京藝術大学、多摩美術大学、武蔵野美術大学、横浜美術短期大学、東京造形大学、東京工芸大学の6校で行われる芸術祭から選出された代表作家を一同に集めた展覧会のこと。

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芸術祭やデザインフェスタで販売していた手作りのぬいぐるみ。

―― ぬいぐるみも制作されていたんですね。

小学生の頃から手芸が好きで、自己流でぬいぐるみを作っていたんです。大学時代もぬいぐるみ制作に力を入れていたので、卒業制作ではメリーゴーランドに乗っている丸っこい動物たちのぬいぐるみを手作りしました。
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卒業制作で作成したぬいぐるみ。

―― すでに商品化されているようなものですから、ポートフォリオ(就職活動用の作品集)をご覧になったサンエックスの方も、他の就活生とは違う感触を得られたでしょうね。

そうですね。自分でもそこはちょっとアピールしていましたね(笑)。

―― よこみぞさんがサンエックスに勤務されていた頃についてお伺いします。サンエックスではキャラクターごとに班にわかれていて、みんなで話し合いながら商品企画やデザインを行うとお聞きしましたが、『すみっコ』の世界観を班のメンバーと共有するために心がけていたことはありますか?

『すみっコ』はキャラクターの種類が多いですし、このキャラはこれができてこれができない、などの細かい設定があって、そのあたりを共有していくのは課題でもあったので、社内で『すみっコ』のウィキペディアみたいな、誰でも社内ポータルサイト上で設定や情報を見られるものを作って、世界観がぶれないよう、間違いがないように気をつけるようにしていました。『すみっコ』を愛してもらうためにはどうすればいいか考えたり、なるべくみなさんが楽しんで仕事をしてもらえるようにというのを常に心がけていましたね。

―― 多摩美時代にも自分の作品について説明する機会などあったかと思いますが、プレゼンテーションは得意なほうですか?

まったく得意ではないです(笑)。でも、映画の打ち合わせなどで話さないといけない場面があるので、私の場合はとにかく事前に資料を作っておくようにしています。資料さえ作っておけばそれをベースに話せるので、できることは全部用意しておくように心がけていますね。

―― 確かに、準備しておけば安心です。自分のできることで苦手をカバーするのは大切なことですね。

学生時代も最初の頃の課題はデッサンが多くて、芸大志望の猛者たちが実力を出してくるので、ちょっともう敵わないなと(笑)。「身の回りの好きなものをテーマにスケッチブックを1冊埋めなさい」という課題が出て悩んだのですが、いろんなお菓子をモチーフにキャラクター化したものを描いたら初めて良い評価をいただいて、参考作品になったのがすごく嬉しかったんですね。そのときに、課題も自分の好きなものやできることに持っていけばいいんだというのを学んだような気がします。

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学生時代、「身の回りの好きなものを描いてスケッチブックを一冊埋める」という課題で制作したイラスト。

自分が向き合うものについて
きちんと考えることが大事


―― よこみぞさんのようにキャラクター業界で活躍したいと考えている人や、多摩美の後輩たちへメッセージをお願いします。

頭で考えているだけではアイデアが出てこないので、とにかく手を動かしてたくさん描くことが重要ですし、絵だけではなく4コマ漫画やぬいぐるみのように他に世界観がわかるものがあると、よりキャラクターの魅力が伝わりやすいかなと。キャラクターの会社はやはりキャラクターを見ていると思うので、個性的すぎるよりも、可愛くて万人受けするデザインのほうが好まれるように思います。

社会人になってから振り返って特に思うのは、「どの授業も無駄にならないから全部しっかり取り組めばよかった」ということです。でも、全部取り組めないほどたくさんの課題があって、自主制作もしたくて......となると本当に時間がなくて、現実的に全部しっかりやるのは難しかったのですが、その時に何を選んでいくか、今選んでいるものは本当に時間を注ぐべきものなのか?と考えることが大事だと思います。課題が多くて忙しくても、人生で一番時間があったのは大学生の頃だったので、その貴重な時間をぜひ悔いなく大切に過ごしてください。

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「五感を使ったおもちゃを作る」という課題で制作した、いろんな手触りの羊のぬいぐるみ。
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「おもちゃを作る」という課題で制作した、ぬいぐるみでできたチェス。


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