個性派漫画家が次々と生まれる場所①
竹熊健太郎先生の大人気授業「漫画文化論」

多摩美には漫画を専門とする学科はありませんが、個性派漫画家が続々と生まれています。その背景には、多摩美での多様な学びと、枠を超え刺激し合える出会いが息づいています。毎年抽選制になるほど大人気の授業「漫画文化論」の、漫画編集家・竹熊健太郎先生に、お話を伺いました。(2018年10月3日発行「TAMABI NEWS79号」より※文中に登場する数字・肩書・学科名などの情報は取材当時のものです)

TAMABI e-MAGAZINE 2019.09.17

開講初年度には750人が受講を希望し、多摩美の最多受講者記録を樹立。現在も抽選制になるほど希望者が多く、「シラバスでこの授業を知って多摩美への入学を決めた」という学生もいるほど人気が高い授業「漫画文化論」の竹熊健太郎先生に、どのような学生が何を学んでいるのか、そしてこれからの業界について聞かせていただきました。

ほかでは絶対あり得ない漫画がいくつも登場

2003年に開講した共通教育「漫画文化論」は、いわゆる漫画学科の授業とは異なり、漫画の描き方といった実技的な内容ではなく、作品や作家とその表現、時代ごとのスタイルや技法の変遷をたどることで、アニメ史と戦後の日本漫画史を学ぶという内容です。初年度から受講者数の最高記録を樹立したのですが、いまは抽選制で255名の学生が受講しています。もちろん中には漫画業界を目指す学生もいますが、多くはそうではなく、油画や彫刻、デザインなどを専攻する学生たちが、表現手段や素養のひとつとして学んでいるようです。ただし、授業の一番最後に提出してもらう課題は漫画作品の制作です。「漫画家を目指すわけでも描いたこともない」という学生が描いた作品には、商業誌には不向きでも、表現として面白い作品、例えばデザイナー的発想でないと絶対あり得ない作品などがいくつも登場します。

多様な表現や人との出会いが作品の糧に

いま、業界全体が過渡期にあります。媒体は紙からスマホになり、縦スクロールでの読み方が増えたことで表現方法が変わってきました。ビジネスの流れも変わります。さらに、以前は出版社への持ち込みや新人賞への応募がデビューの王道でしたが、いまネット上やコミックマーケットなど、作品発表の場は多数あります。実際に、それがTwitterで話題となって、出版社側から声掛けされるパターンも増えました。漫画家志望の人にとってはチャンスのときです。しかし、厳しいようですが、プロの世界とはそもそも「漫画家になるために大学で教えてもらおう」というスタンスの人にはまず無理な世界です。実際に活躍している多くのプロが、「ここで人脈を築こう」「表現の幅を広げよう」といった目的意識を持って進路を選択したと語っています。在学中に同じ志を持った仲間を得たという人も多いですね。漫画家を目指す学生しかいない漫画学科と違って、多様な表現や人と出会えるのは、多摩美だからこそ。個性を競い合う場となっていることが、漫画家に限らず、アニメやイラストレーターなど、多くの個性派作家を生み出す理由の一つでしょう。僕はそんな才能に出会いたくて、多摩美で授業を行っています。以前は、いまより漫画を見せに来る学生も多く、学食で語り合う機会も頻繁にありました。もっと積極的に、僕、あるいは学生同士で交流を持ってほしいですね。どんどん話しかけてください。

【コラム】歴代受講生の課題作品は個性の宝庫

竹熊先生が編集長を務める『電脳マヴォ』では、歴代の「漫画文化論」課題の優秀作品などが公開されています。そこには、漫画の概念やルールを根底から覆すような展開の作品や、油画や日本画の学生による圧倒的な描写の作品など、一般の商業誌ではなかなか見られない個性が多く見られます。なかには15年前に作られたにも関わらず閲覧ランキングで上位を保ち続ける作品もあり、普遍的な価値を感じさせます。
電脳マヴォ http://mavo.takekuma.jp

高度な作画技術で異質な世界観を混在
▲『家族喧嘩』グラフィックデザイン卒・水野清香さん
少女漫画風とリアルなタッチの混在でインパクトを与える作品。現在はイラストレーター「おうひと佐也可」として活躍中。
背景とキャラクターが「絵」として融合
▲『光る実』日本画卒・よそ町さん 
一般的な漫画のようにパターン化された背景ではなく、圧倒的な画力による森や草むらの繊細な描き方が特徴的な作品。
在学中から完成された世界観で読者を魅了
▲『絶体絶命電話』大学院デザイン修了・ぬQさん
「受講生ではありませんが、漫画を講評しました。歩く自己表現のような人でした(竹熊先生)」。現在はアーティストとして幅広く活躍中。
枠線と文字だけで構成、「絵のないマンガ」
▲『放課後、雀荘で』環境デザイン卒・坪井慧さん(「マヴォ実験漫画ラボラトリー」より)
4人が雀卓を囲む雰囲気を、反転する文字だけで表現。自由な発想と構成がデザイン的。

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