本学卒業生として初の快挙!日本建築学会賞受賞記念 武松幸治さん特別講演会開催レポート

2019年4月、建築家の武松幸治さんが、多摩美の卒業生として初めて「日本建築学会賞」を受賞。これを記念して、9月25日、八王子キャンパスで特別講演会「環境を変換する装置としてのデザイン」が開催されました。「クリエイティビティの礎は多摩美の4年間で培われた」と語る武松さんの講演レポートをお届けします。

TAMABI e-MAGAZINE 2020.03.04

2019年日本建築学会賞(作品)受賞 新豊洲Brilliaランニングスタジアム
撮影=Nacása & Partners

講演者プロフィール

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86年建築(現・環境デザイン)卒業
建築家・武松幸治

1986年多摩美術大学建築科(現在の環境デザイン学科)卒業。1991年E.P.A環境変換装置建築研究所を設立。建築のみならず、インテリアデザインやインスタレーション、プロダクトデザインなど幅広く手掛けている。


「多摩美に入学していなければ、こうした建築物はつくれなかった」
―展覧会からライブステージまで、領域を超えて活躍

武松さんの肩書は「建築家」ですが、その創作活動の領域は多岐にわたります。講演の冒頭では、武松さんがこれまでに手掛けたインスタレーションのポートフォリオ映像を見ながら、その一つひとつを解説いただきました。

「インスタレーションとは、美術展やデザイナー、アーティストの展覧会における会場構成や企業のPRイベントなどの空間構成のこと。予算や時間、素材などに制約がある場合が多く、紙やフィルム、仮設の足場、そして再生可能な木材でつくられたパーティクルボードなど、単価の低い素材を活用して空間をつくっています」

武松さんが長年携わっているインスタレーションの仕事の一つに、グラフィックデザイナー横尾忠則さんの展覧会の会場構成があります。「60's by yokoo tadanori」では、1960年代の横尾氏の作品を配置し、時代背景まで感じられる雰囲気を演出しました。

DREAMS COME TRUEの1995年の「WONDERLAND'95」全国ツアーでは、大型の野外ステージの設営を担当。こうしたライブのインスタレーション案件は、コスト感や施工性、撤収のしやすさなどに特に配慮が求められるとのこと。

その他にも、映画監督のデヴィッド・リンチやファッションデザイナーのモーリス・レノマ、ジョー・ケイスリー・ヘイフォード、坂本龍一などのビッグネームが次々に飛び出し、聴講した学生たちは熱いまなざしで武松さんの解説を聞いていました。

インテリアデザインの事例でも、spiral marketやVIA BUS STOPなど、学生もよく知る有名セレクトショップの名が。さらに武松さんは、展覧会のキュレーションやアーティスト活動も行っているとのこと。一つの領域にとどまらないその多彩な活躍ぶりに圧倒されました。

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▲「60's by yokoo tadanori」(1995)
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▲DREAMS COME TRUE「WONDERLAND」(1995)
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▲VIA BUS STOP(1999)

しかし、数多くのプロジェクトに関わるうちに大きな疑問が生じたと続ける武松さん。
「デザインを提供することで、人々の生活環境は豊かになりますが、建築物はいずれ役目が終わってしまえば産業廃棄物になるのです。地球環境にとってはデメリットになってしまう。そこで、なんとか環境に配慮した建築を実現できないかと考えるようになりました」

環境に配慮した建築のための素材「CLT」

武松さんは「環境を守る建築を作りたい」という思いから、これまでに取り組んだ数々の建築プロジェクトにおいて、壁面緑化や屋上緑化のシステムを構築したり、汚水や地下水を利用したスマートエネルギーを使用したりと、さまざまな新技術を使う提案を行ってきました。

「しかし、そうした新しい技術は、コストがかかるために、予算の問題で排除されてしまうことが多かった。排除されないものは何かと考えたら、『構造体』ではないかと。主要構造部を木造に替えることができれば、持続可能な建築が実現できるのではないかと考えたのです」

武松さんが力を入れて建築に取り入れている素材のひとつがCLT(CROSS LAMINATED TIMBER)。オーストリアで開発されたもので、間伐材などを用いて大判の部材をつくることができます。

「CLTの何がいいかというと、省CO2だというところです。木材はCO2を固定し、排出を抑えてくれる素材ですので、地球環境を守ることにつながる。さらには、衰退産業である林業に対して、CLTなどの新しい環境配慮型の素材が普及していけば、新しい木造産業が生まれていくのではないかと思っています。そのためには、我々が木造建築物を作り、普及を推進していかなければなりません」

武松さんは、熊本県にある森林総合研究所や沖縄の保育園など、CLTを使った建築物をすでにいくつも実現しています。実際にCLTを使った建築プロジェクトの様子を映像で見ながら、その事例を紹介していただきました。


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▲熊本の森林総合研究所(2018)/撮影=Nacása & Partners
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▲沖縄・子どもの森保育園(2017)/撮影=Nacása & Partners

「コンクリート打ちっ放しという言葉がありますが、CLTを使った建築には、たとえるなら『木造打ちっ放し』という雰囲気があります。とても温かみのある空間で、訪れる人や働いている人たちにも良い影響があったようです。住宅に活用した事例では『睡眠が深くなった』という声もいただきました」

コンクリートと木造のハイブリッド建築にする場合も多く、ふたつの素材はデザイン的に相性が良いことから、新しい表現の可能性も感じているといいます。


障がい者アスリートを世界の舞台へ導く
環境配慮型の木造建築「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」

最後は日本建築学会賞を受賞した「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」の話に。60メートル陸上競技トラックと義足開発ラボラトリーが併設された、パラリンピック出場を目指す障がい者アスリートのための施設で、木材と鉄骨で構成されたアーチ状の骨組みの上に透明のETFEフィルムを使用してつくられた、開放感あふれる全長108メートルのトンネルが目を引く建築物です。

「60メートル走が実施できる全天候型のトラックを設けることが施設としての必須条件。それを聞いてすぐに、過去にインスタレーション作品で採用した透明で軽い膜材ETFEフィルムを使うイメージがわきました。そしてそのフィルムを支える骨組みを木造にしたいと考えたのです」

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撮影=Nacása & Partners

新豊洲Brilliaランニングスタジアムでは、アスリートの強化訓練だけでなく、健常者と障がい者で構成されるコミュニティの創出や、ランニングスクールの実施によるユース世代の育成なども行われています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて新豊洲地区をランニングの聖地にしたいという構想のもと、2014年にプロジェクトがスタートしました。

「スタート時点では構想のみで、運営組織や資金面のことなど、具体的なことは決まっていませんでした。そこで設計事務所である我々も自らディベロッパーに声掛けをして、ネーミングライツの公募を提案し、建築費を確保するなど尽力しました」

建築的にもっとも目を引くのが、木材と鉄骨で構成された骨組みの上にフィルムを貼ったトンネルをもつ、全長108mのトラックです。

「全天候型であることや公式記録会などを実施できる60m走が可能なトラックを設けるといった要望を受けてすぐに、過去にインスタレーション作品で採用したことのあるエアーフレームのイメージが浮かびました。透明で軽い膜材のEFTEフィルムを使ってエアーフレームをつくり、それを支える構造体を木造にしたいと考えたのです」。

集成材でつくった木製のフレームを湾曲させてジョイント部分を少なくする、プレス機と治具を使い、フレームを簡単に、複数同時に曲げるといった数々のアイデアを用いて、施工性の高い部材をスピーディーに製造でき、コストが抑えられ、工期も短縮できることになりました。

「構造的に問題がないというだけでなく、『いかに美しくつくるか』という意匠性も大事です。そのために何度もスケッチを重ね、美しい曲率やフォルムを考え抜きました」

こうしてトラック部分が完成。併設された義足調整室などには、注目素材であるCLTも使われました。すでに健常者にも障がい者にも、アスリートにも子どもたちにも活用され、ランニングの聖地として歩み始めています。


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撮影(下)=Kazue Kawase

講演会後には学生からのさまざまな質問に答えていただきました。その一部をご紹介します。

――武松さんがこれから取り組んでいきたいと考えていらっしゃることはなんですか。

「木造建築のさらなる普及に取り組んでいきたいです。商業施設など大規模な建築物においては、木造はまだまだ簡単に実現できることではありません。法的な整備や安全性の検証なども必要ですし、何よりディベロッパーなど建築を事業として行う会社に『コンクリートや鉄骨に比べて木造が良い』とメリットを感じていただく必要があります。さまざまなプレイヤーと対話を重ねながら開発していかなければなりません。ただ、将来的には木造もコンクリートと同じくらいの耐久年数があるといえると考えていますし、『解体して移設できる』という点はコンクリートに勝る部分です。木材のチップを加熱圧縮して作るパーティクルボードのように、リサイクルして床材やマンションの壁に使うことができますし、建築部材にならなくても、燃料になりえます。その可能性を広めて、普及させていきたいですね」

――多摩美の学生たちにメッセージをお願いします。

「僕のベースは、多摩美にいた4年の間につくられました。建築学科だけでなく、グラフィックデザイン、彫刻、染色など、さまざまな学科の学生と身近にコミュニケーションをとれる機会があったことが大きいと思っています。現在の仕事を通しても、アーティストやデザイナーなど、自分とは全く異なる発想に出会う機会が多くあります。学生時代に自分の専門以外のものづくりの過程や思考を間近に感じて吸収することは、卒業後も必ずプラスになるでしょう。多摩美は、キャンパス内を歩くだけでそうした機会に出会える環境にあります。みなさんの周りにはたくさんの宝が埋まっているようなものです。そして、大学の外へ出て、さまざまな情報を取り込んでほしいと思います。私もいろんな展覧会に出かけていましたし、とくに書店は積極的に訪れ、建築関係の洋書を1日中眺めていたりしました。好きなものや興味を惹かれるものをとことんリサーチして、自分のものにしてもらいたいと思っています」

【コラム】日本建築界からの高い評価

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▲受賞祝賀会にて、登壇し挨拶する武松さん

一般社団法人日本建築学会が主催する日本建築学会賞の作品賞は国内の建築家に与えられる最高峰の賞とされています。「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」は51の候補作品の中から選ばれた2作品のうちの一つで、「近年類まれに見る『必然の美しさ』を十二分に感じさせるものであり、またその必然によって清潔感溢れる爽やかな『人の居場所』を創出させている」との高い評価を得て受賞しました。10月30日には受賞を祝う会が現地で盛大に行われ、スタジアム館長の為末大さんによるトークをはじめ、障がい者アスリートによるランニングイベントも行われました。


※本記事は2019年12月24日発行「TAMABI NEWS84号」に掲載した内容に加筆したものです。

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