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【許願(キョ・ガン)】ザグレブ国際アニメーション映画祭で大学院デザイン専攻グラフィックデザイン領域修了のキョガンさんが特別賞を受賞

2023の修了制作の『Sewing Love』が、ザグレブ国際アニメーション映画祭特別賞をはじめ数々の賞を受賞した許願さん。受賞作についての話や制作の苦労話、アニメーション制作を始めたきっかけなど、大学院での2年間を指導した野村辰寿教授にお話を聞いていただきました。


ザグレブ映画祭の後、
フランスのアニメスタジオから新作を見せてほしいという話が来た

野村: クロアチアの「ザグレブ国際アニメーション映画祭」の学生部門特別賞をはじめ、フランスの「アヌシー国際アニメーション映画祭2023」の卒業制作部門選出、エストニアの「Poff Shorts 2023International Animation Competition」でのベストアワード賞など、インターナショナルな映画祭で受賞し、世界的に評価を受けていることを非常にうれしく思っています。受賞について、どう感じている?

許: たくさんの賞をいただいて、プレッシャーを感じています。新作はどうしようか、広告のアニメーションの依頼は今後あるだろうかなどと思いながら、今は中国のプロダクションFLiiip Designで週のうち3日をインターンとして働いています。

野村: ザグレブの映画祭の後、フランスのアニメスタジオから新作を考えたら見せて欲しいと話が来たと言っていたけど、その後どうなったの?

許: 3月にインターンが終了するので、そこから新作の絵コンテ、イメージボードを作って、ある程度形になったら連絡しようと思っています。新作は頭の中にはあるんですが、視覚的な表現がまだ見つかっていないので準備ができてからと考えています。

野村: フランスで新作ができたら世界中で公開されて、見た人がまたびっくり、というのもいいよね。
世界4大アニメーション映画祭のひとつに数えられているザグレブの映画祭では準グランプリを受賞。この時はどう思った?

許: ザグレブに行った途端、コロナに感染してしまって、映画祭には受賞式しか出られなかったんです。ようやく参加したら賞をいただいたのでびっくりしましたけど、うれしかったです。でも大きな映画祭なので緊張し過ぎてしまい、登壇したときにコメントを「サンキュー」しか言えなかったのは、あまり印象よくなかったなって(笑)。

野村: 僕もコロナのことを聞いていたから心配したけれど、受賞してよかったよね。アヌシーは残念ながら入賞には至らなかったけれど、世界中から2000以上の応募があってその中から入選するだけでもすごいこと、大活躍おめでとうございます!ちなみに、ザグレブ以外に印象に残っている賞はある?

許: エストニアの「Poff Shorts 2023International Animation Competition」の副賞が来年の参加資格で、それはすごくうれしいです。いい作品をたくさん見られる上に、旅費なども全部出してもらえますから。

野村: エストニアはアニメーション大国でプリート・パルン監督を始めいろいろな作家がいて、先鋭的で前衛的なアニメーションがたくさん作られているから、そこで評価されるのはうれしいよね。

『Sewing Love』
キョ ガン(2022年度大学院修了制作)
音楽:佐藤七海、8分33秒

受賞はもちろんうれしいけれど
多摩美に合格したときのほうがうれしかった

許: 中国の動画共有サービスBILIBILIが主催するアニメーションアワードでは同級生のリン・ジュンケンくんも「夜猫」で最高賞を受賞しました。その時2人で話をしたんですが、受賞はもちろんうれしいけれど多摩美に合格したときのほうがうれしかったねと。同じ意見だったんです。
理由は、その後の2年間は自分の作品が作れるという喜びですね。将来に楽しみがあるのはいいことですし、受賞はこの2年間の努力を認めてもらったという意味でうれしいことでした。

野村: 2人とも受賞したのはすごいことだし、ほかにも中国の「Feinaki ANIMATION WEEK」での受賞もよかった。こちらのアワードは、アーティスティック、BILIBILIは商業的と、かなり違った色合いなのでね。

許: 自分の国で受賞するなんて考えたこともなかったんです。中国の「東布洲国際アニメーションワールド」のフォーラム大賞をいただいたのも、まさかと思いました。審査員の方たちは中国の商業的な映画を作っている人たちなので、私の作品が大賞?と。

野村: 「Feinaki」はアーティスティックな映画祭なので許願が受賞するのは理解できるのだけど、それ以外でも賞をもらっているのはすごいこと。中国を代表する作家になりつつあるんじゃないかな。

2023年大学院デザイン専攻グラフィックデザイン領域修了 許 願(キョ ガン)さん

ぬQさん、姫田真武さん、久野遥子さんなど
特徴的な卒業生の作品をたくさん見て感覚を身に付けた

野村: 『Sewing Love』は8分34秒と割と長い作品じゃない?作品を通して伝えたかったことは何かな?

許: 「愛のコントロール」です。自分が自立しないと他の人を愛するのはむずかしい、一方的なエゴイスティックな愛は、二人だけでなく周りの関係も壊していくというようなことを伝えたいと思って作りました。
大学院入学前に研究生として入学して半年くらいのとき、頭の中のイメージをどう形にするか悩んでいて、あるとき男の人の中に女の人がスポッとハマるというキャラクターを伴った企画が出てきて、それはおもしろいんじゃないか、いろいろなことが語れる気がして、それから制作を始めて、大学院の2年間もずっと制作を続けてようやく完成しました。

野村: 実際にこの2年半は大変だった?苦労した点は?

許: めちゃくちゃたくさんありますね(笑)。制作中は、毎週先生の意見を聞いて修正を重ねて今の形に。最初は時間も長く、演出もヘタでしたから、かなり修正しました。

野村: あれほど情熱を持って執念深く(笑)、毎週手を入れて持ってくる学生はそういません。絵コンテもどんどん変わっていったし、ビデオコンテもずっと変化し続けてそれがどんどん形になって行き、最初の頃とはだいぶ違います。楽しさや怒りを描くシーンも、作るたびに強力になっていったね。

許: 描き終わった原画に納得できなかったら、新しく描き直しました。最初の段階では原画とカメラワークがうまくできなかったので、フェルト生地でキャクターを作って携帯のカメラでどう動くのがいいか考えたりと、試行錯誤の繰り返しでした。

野村: いつになったら終わるのだろうと心配していたけど、最初の1年は線で動きだけをきちんと決めて、色をつけるのは2年目にと時間をとったのは正解だったと思うよ。 ところで、そもそも多摩美に入ろうと思ったきっかけは?

許: 中国の華東師範大学在学中、作品をいろいろ見ていたら、シュウショウリンさんやぬQさんや姫田真武さんなど気になる作家は多摩美の卒業生が多かったんです。みなさん、中国でも有名で、中でも久野遥子さんの作品はSNSでよく見ていたので、多摩美を知ったんです。オープンキャンパスにも参加しましたが、きれいで、めちゃ学校の雰囲気が好きで、それで入学を希望しました。多摩美に行ってよかったです。

野村: 僕も来てもらえてよかったです(笑)。

野村: さて、中国の大学時代からアニメーションを作っていたということだけど、許願はいつ頃からアニメーションに興味を持っていたの?

許: 子供の頃から「トム&ジェリー」が好きでした。最近では、湯浅政明監督の作品がすごく好きです。すばらしいと思っています。大学時代に湯浅監督の「マインドゲーム」を見たんですが、アニメーションの力が強くて、実写と2D、3Dが融合している抽象的で自由な感じがすごく好きです。私が多摩美の入学前に制作した作品は、カメラも動いていないし抽象的な動きもあまりない。グニュグニュした動きは多摩美に入ってから、ぬQさん、姫田真武さんの作品など特徴的な作品をたくさん見て、この感じを身につけました。

野村: 最初は硬い動きだったのが、動き出しと止まるところをゆっくり動かして、大きく速く動くところとの緩急をつける、それに合わせてカメラも全編動くなど、動きのタイミングの取り方がすごく上手になったよね。自分でも動かしていておもしろくなってくるでしょ?

許: そうですね。中国の大学にいるときは、あまり考えて作っていなかったんです。感覚で作っていた感じですね。でも多摩美に来たら、先生方から「テーマはなんですか?」「このような作り方をした理由は?」といろいろ聞かれるので、考えながら作らないといけないんだと思ったんです。それで上手になっていったんだと感じています。

野村: 授業時間以外でもメールで質問をしてきたり、自分のアイデアへの意見を尋ねてきたりと、とにかく真面目に熱心に取り組んでいたよね。こちらもその想いに応えたいと思った2年間でした。ところで、次回作はもう考えているのかな?

許: 「人のプレッシャー」を次のテーマに考えています。キャラクターデザインも風船のようなグニュグニュしたものにしたいんですが、描くのが難しいので3DCGソフト「ブレンダー」をこれから使ってみて、物理的な状態をソフトウエアで実現できるかどうか試してみたいと思っています。

野村: アプリが予期せぬおもしろい効果を生むことがあるし、自分の刺激になることもあるからね。新しい挑戦は自身のモチベーションにも繋がるからね。新作は何年かかるかわからないけど、今から完成が楽しみです。今後も世界の舞台での大活躍を期待しています!


許 願(キョ ガン)
許 願(キョ ガン)

2023年大学院デザイン専攻グラフィックデザイン領域修了

野村 辰寿
野村 辰寿

グラフィックデザイン学科教授


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